『宇宙へ行きたくて液体燃料ロケットをDIYしてみた』

ゴオオオオオオオー!
「おおー!」「うわっっ」
インジャクターの少し先で、轟音をあげて炎が上がった。火炎放射器のようにオレンジ色の炎が4mほど前方に伸びる。時間にして数秒。
「燃えた‥‥‥」
インジェクターから噴出されたエタノールと液体酸素はみごとに混合し、乗用車のプラグが放つ火花を大きな火炎にした。
歓声があがった。
野田が笑い出す。止まらない。自然にみんなで拍手をしていた。
「成功!」「ほんとうに火がついた」「こわ‥‥‥」

本書の主人公「なつのロケット団」が一から手作りで作ったエンジンが、試行錯誤を重ねた末、初めて燃焼に成功した際の描写である。「なつのロケット団」とは、ロケットをつくって本気で宇宙へ行こうと考えている漫画家、SF作家、CGイラストレーター、エンジニア、元IT企業社長たちからなる集団。平均年齢はおそらく40代後半のおじさん集団(失礼!)である。ただ、そんじゃそこらの思考停止しているおじさんたちとは一線を画していることは、上の描写を読めばすぐ理解できるだろう。ノリはまるで学園祭前の大学生だ。

そんなノリノリのおじさん集団が目指しているは、世界一低コストでのロケット開発。国に頼らず民間主導で開発を進め、ホームセンターやネットショップで入手できる材料を使うことをテーマとしている。最近、JAXAIHIイプシロン・ロケットという従来の約1/3の費用で打ち上げられるハイテク小型ロケットを開発しているが、「なつのロケット団」が目指すのはより安いローコスト・ローテクなロケットである。もし実現できれば、誰でも格安で衛星を宇宙を飛ばすことができるようになり、更には格安で宇宙旅行できるようになるかもしれないという、新たなインフラの登場に繋がる可能性を秘めたプロジェクトである。

本書は、そんな夢溢れるロケット開発に挑む素人集団のこれまでの軌跡を、メンバーの一人であり漫画家のあさりよしとお氏がイラストを交え綴っている。彼らの成功と失敗の過程が面白おかしく描かれており、純粋に読み物として面白い。ロケット開発につきものの爆発はいつ彼らに訪れるのか、ちょと心配しながら本書を読むとスリル感が倍増し、よりドキドキしながら読める。

本書によると「なつのロケット団」の運営方法は、出せる奴が、出せる時に、出せるだけの資金と時間を投じるというスタイルだそうだ。日頃はメンバーそれぞれ別の仕事をし、月に一回集まれる人たちが集まってロケットの開発を行う(HONZ運営方法と似ている)。大学サークルのノリなのに、創立5年で初のロケット発射成功、創立7年目となる2014年には宇宙空間と言われる高度100kmまでロケットを飛ばす予定だという。夢を語るだけでなく、実際に結果を残す集団であることがヒシヒシと伝わってくる。大きな夢に挑戦する集団の運営手段はどうあるべきか、とても示唆に富んでいる。

ちなみに、メンバーの一人で元IT企業社長とは、ホリエモンこと堀江貴文氏である。彼が個性豊かなメンバーにとけ込み、一緒にアルミ板をやすりがけしたり、燃焼試験で大喜びしたり、メンバーの飯を作ったりする光景も描かれており、メディアに映る姿とは少し違った一面を垣間みれる一冊でもある。

本書の最後にコメントを寄せる「なつのロケット団」をサポートする植松電機の植松務専務の言葉には「はっ」とさせられた。

子どもの頃、人は宇宙に憧れます。でも気がついたら、宇宙の仕事は、よほど頭が良くないと‥‥‥ものすごくお金がかかる‥‥‥と思い込んでしまいます。でもそれは、やったことがない人が教えてくれた、やらない言い訳です。そんな言い訳を覚えちゃったら、どんな夢だってあきらめられます。なつのロケット団は、やっています。だからこそ、本当の夢の追いかけ方を教えてくれます。

やらない言い訳を考えるのではなく、「できる」と思い込む人こそが、世の中を変えることが出来る。本書が教えてくれる教訓の一つである。ロケットファンだけが読むにはもったいなく、中高生、進路に悩む大学生、忙しいビジネスマンなど、あらゆる人に読んでもらいたい一冊である。