『新幹線お掃除の天使たち』

新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか?

新幹線お掃除の天使たち 「世界一の現場力」はどう生まれたか?

ホームに入ってくる新幹線に一礼している集団を見たことあるだろうか。フランスの国鉄総裁に「これをフランスに輸出してほしい」と言わしめた日本が誇る「おもてなし集団」である。前米国カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルェネッガー氏や米国運輸長官ラフード氏も、日本を訪れた際にわざわざこの集団を視察している。国内では『日経ビジネス』誌がこの集団を「最強のチーム」として取りあげた。

この「おもてなし集団」とは、JR東日本グループ会社の鉄道整備株式会社、通称“テッセイ”の社員たち。停車している新幹線や駅構内を掃除する清掃員である。一見、地味な肩書きに聞こえるが、世界最速と言われる「魅せる清掃」で世界中から注目を集めている。

東京駅の東北・上越新幹線などの折り返し時間はわずか12分。乗降時間に5分かかるため、清掃にさける時間はたった7分間である。そんな限られた時間内に、座席下や物入れにあるゴミをかき集め、全てのテーブル・窓枠を拭き、トイレの清掃までもを完璧に終わらせる(トイレがどんなに汚れていたとしても彼らは任務を完遂する!)。列車ダイヤが乱れてもなんのその。機転を利かせた人員配置で見事に時間内に仕事を終わらせる。

その早さと完璧さも圧巻であるが、彼らが世間から注目されている理由はそれだけでない。車両清掃チームは、列車が入線する3分前にホーム際に整列し、新幹線がホームに入ってくると深々とお辞儀をして迎えるのである。さらに、清掃を終えたチームは再度整列し、ホームで乗車待ちの客に「お待たせしました」と一礼する。この礼儀正しさと華麗な神業をして「7分間の新幹線劇場」と言われている。

本書はそんな「新幹線劇場」の主役である清掃員(別名「お掃除の天使たち」)と彼・彼女らを支える経営陣に焦点をあてる。第一部ではお掃除の天使たちが経験した心温まるストーリーを紹介。「お掃除のおばさん」をしていることが恥ずかしく親類に清掃会社で働いていることを隠していた女性が仕事にプライドを抱いていくストーリーや、東日本大震災直後に無惨なほど汚れた車両をお掃除の天使たちが手分けして奇麗にしていくストーリーなど、読み進めているとほっこりした気分になったり、目頭が熱くなったりする。

第二部では、会社の経営陣たちが如何にして「最強のチーム」を作っていったかを早稲田大学ビジネススクール教授の著者が分析しており、ここが本書の醍醐味である。7年前、テッセイは普通の清掃会社にすぎなかった。バリバリ高学歴の職員が多くいるわけではなく、従属的な関係のなかで与えられた仕事だけを淡々とこなす、いわゆる下請け会社。そんな会社を現専務取締役である矢部輝夫氏らが変革していく過程が紹介されている。一部から陰口を叩かれながらも自らの理想に賛同してくれる仲間を増やしていき、組織体制や雇用体制の変革・イベントなどをとおして一体感あるチームを編成。現場で頑張る人を褒める制度を構築することで、現場の自発性・自主性を育む文化を定着させる等、本書には「最強のチーム」を作るための手引きが散りばめられている。

本書はいわゆる経営本では全くない。しかし紹介されているテッセイの取り組みを通じて、現場力の強化・組織の変革には何が必要なのかという組織論、ブランド力強化・顧客満足度向上をいかに実現していくかというマーケティング論など、会社をキラキラ輝く会社へと変貌させるためのヒントがつまっている。