『交路からみる古代ローマ繁栄史』

日本の財政が逼迫しているのはご存知の通りである。日本はGDP対比で200%もの国債残高を抱えている。それも日本国債は、今まで国内消化率が95%を越えていたものの、最近の欧米通貨信任失墜によってだんだん外国人保有率が増えてきている。海外の投資家に今後も頼らざるを得ないのであれば、外国人投資家の要求を満たす為にはこのままでは金利を引き上げるしかない。あー、日本は財政破綻の道まっしぐらである。若い人にとってはお先真っ暗な世界だ。

興味深いことに古代ローマ財政破綻の危機があった。二世紀中頃から三世紀初頭、国家ローマでは、歳出の7〜8割が軍事費用に費やされていた。そりゃそうだ、今のEUより広い国土を支配する為にはかなりの軍隊が必要であるし、彼らは100年以上内乱をしている。それも「攻撃は最大の防御である」という格言があるほどのローマである。攻勢を強めるためには際限なく軍団の数を増大させなければならなく、国家財政のパンクは目に見えていた。そんなローマの財政危機を救ったのが、初代皇帝アウグストゥスである。

彼は先人達が建設した道路を使って駅伝・郵便制度を整え、領土内各地の情報が首都ローマにすぐ伝わるようにした。情報が中央にすぐ届くようになれば、不必要な軍団及び遠隔地の軍団基地を減らすことができ、軍事費が削減できたのだ。彼は交路を上手く活用して軍事費の削減に成功し、国家財政破綻の危機からローマを救ったのである。

このように古代ローマ繁栄史を「交路」というユニークな視点から編集しているのが本書だ。本書のメッセージは、古代ローマ繁栄の鍵は「領民の安全保障と食料確保」であり、その二つを可能にしたのは、物資・人・情報を運び、軍隊を迅速に移動できる陸の道・水の道だったというもの。そして本書は、古代ローマの陸と水の交易路とはどういうもので、いつ・どうして作ったのか、そして古代ローマの繁栄にどのように結びついたのかを一つずつ解明していくのである。上述したようなストーリーが満載であり、面白くないわけがない。

本書を読むと古代ローマの交路に詳しくなるだけでなく、ローマ人の建設技術にかなり圧倒される。特に『ガリア戦記』にも出てくるカエサルが作ったライン川の架橋技術は圧倒的だ。ライン川は幅が広く急流で水深が深い川にも関わらず、カエサルは、わずか10日間で架橋を完成させ、対岸にいたゲルマン部族の制圧を成功させているのである。振動・変位現象をきちんと理解した上で技術的には難しい斜坑方式を採用し、見事に10日間で完成させているのだ。

世界一の吊橋・明石海峡大橋の建設に携わった筆者を唸らせるほどであるから、相当すごいのだろう。技術的に難しい橋作りを数万人もの軍団兵を指揮しながら建設していくカエサルの姿を想像するだけで、身震いしてしまう。しかも自著『ガリア戦記』に架橋方法の詳細を書けるほどであるから、カエサル自身かなりディーテールにも通じていたはずである。部下がやっている仕事のディーテールをきちんと理解しているのはリーダー・上司のあるべき姿である。古代ローマ好きだけでなく、部下を持つビジネスマンにも読んでもらいたい本だ。