『日本の料亭紀行』『タネが危ない』

最近読み終わった本を簡単に紹介。

『日本の料亭紀行』

日本の料亭紀行

日本の料亭紀行

各業界にはそれぞれキュレーターがいるが、料亭のキュレーターは誰かと聞かれればこの方だろう。本書は日本全国の老舗料亭をエッセイ風に紹介している。本書を読んでいるだけで気分が落ち着き、日本の伝統文化の宝庫である料亭に行きたくなる。料亭には美味ばかりではなく知的な好奇心を満たしてくれるものがたくさんあり、本物の文化が凝縮した形で残っていると言う。(それほど料亭に行っているわけではないが)まったくその通りだと思う。

あまり料亭に行ったことがない人のために巻末には、「料亭の楽しみ方」「これから料亭へ行こうとする人のために」という章も設けてある。ぜひ本書を読んで、料亭に行ってほしい。料亭が100倍楽しめるはずである。


『タネが危ない』

タネが危ない

タネが危ない

筆者は、手塚治虫の元担当編集者であり、今はタネ屋の三代目という面白い経歴の持ち主だ。

あまり一般に知られていないが、タネには固定種とF1種がある。固定種とはオリジナルのタネのことで、F1種とは品種改良されたタネのことだ。F1種から出来る野菜は、大きさも風味も均一であり、大量生産・大量輸送しやすいので、私たちが口にする野菜はほとんどF1種から出来ている。それだけ聞くとF1種の方が良さそうに聞こえるが、F1種は雄性不稔という花粉のできない突然変異の個体(子孫を残せないミトコンドリア異常の植物)から作られているという事実を知ると少し気味悪い。本書は固定種が消え、F1種が席巻する現代を憂いている。

先日私が紹介した蜂群崩壊症候群(CCD)に関しても、筆者なりの仮説をたてていて面白い。筆者の仮説はこうだ。雄性不稔F1種子の蜜や花粉を与えられて育った女王バチに異常な遺伝子が継代して蓄積され、その女王バチからやがて無性生殖の雄バチが誕生する。巣はだんだん無性子症の雄バチで満たされていき、雌の働きバチたちがそのことに気づいたとき、巣の未来に絶望して巣を見捨てて飛び去ったと言うものだ。筆者の仮説が正しいかどうかは今後の研究に期待する。