『新幹線をつくる』

新幹線をつくる (メディアファクトリー新書)

新幹線をつくる (メディアファクトリー新書)

正確性、安全性、快適さ、速さ、そして美しさ。日本のモノ作りが大切にするコンセプトである。そんなコンセプトを一つの乗り物というカタチにしたとき、世界に誇る日本の新幹線が出来上がる。正確無比に、安全に、故障することなく、しかも驚くべき速さで走り続けている新幹線。まさしく、わが国が世界に誇るべき「メイド・イン・ジャパン」の技術力の結集である。本書はそんな「メイド・イン・ジャパン」の誉れである新幹線をつくる男たちに焦点をあてる。

著者が紹介するのは、東海道新幹線の新型車両N700Aを製造しているJR東海と日本車輛製造の技術者・技能者たち。東海道新幹線といえば、東京ー大阪間を最速時速270kmで走り抜け、年間平均遅延時間たった36秒、47年間という無事故記録を更新中である日本の代表的な新幹線である。そんな日本が世界に誇る「メイド・イン・ジャパン」車両を製造するのはどんな人たちなのか、本書は、普段なかなか日の目を見ない日本の技術者たちの「こだわり」をあぶりだしていく。

例えばN700系新幹線内の空調機器日本車輌製造の内装設計技術者の大石和克氏がこだわったのは客室内の温度の均一性だ。客室内で空気がどのように対流するか「流体解析」というハイテク技法を用いてシミュレーション検証実験を重ねる。シミュレーション実験の末に行き着いたのが、吹き出し口から吹き出す空気の角度や風が壁にぶつかる角度などへのこだわりである。わざわざそこにこだわらなくても、とつい思ってしまうが、この大石氏のこだわりのおかげで、私たち乗客は1Aの席でも、10Cの席でも、あるいは20Eの席どこに座っても空調に違和感を感じないのである。

もちろん技術者・技能者が駆使するのはハイテク技術だけでない。世界一精巧な職人技も駆使する。日本車輌製造溶接技能者鈴木健男氏がこだわるのは部材の完璧な組み合わせ。新幹線の先頭車両の車体はその複雑な構造から数千個ものパーツを繋ぎあわせて成り立っているが、これらを繋ぎあわせているのは技能者たちの手作業である。普通、パーツのつなぎ目では、面と面が微妙に重なりあったりズレたりと僅かな誤差が生じていくものだが、彼らの手にかかれば何千ものパーツがほとんど誤差を発生せずに溶接されていく。巨大で美しい流線型の車体は、驚異的な職人技によって実現されていたのだ。

その他、シール貼りの名人や台車組立のエキスパートなど、新幹線製造に関わる技術者・技能者約15名が紹介されている。それぞれに「こだわり」のストーリーがあり、これら「こだわり」を知っているのと知っていないのでは新幹線の乗り方が変わってくること間違いない。

最後になるが、本書を手に取った読者にオススメするのは彼ら技術者・技能者の顔写真をパラ見すること。著者が「はじめに」で紹介する通り、一見どこにでもいそうな普通のおじさんなのだが、実際は世界最高レベルの技術者ばかりである。なんだか日本のモノ作りを支えるおじさんたちのイキイキとした顔写真を眺めているだけで、書籍代800円のもとはとった気分になれる。